【登場人物】秒速5センチメートル 遠野貴樹ー悄然たる姿の主人公ー

 
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遠野貴樹(とおの たかき)
僕たちの前には 未だ巨大すぎる人生が 茫漠とした時間が どうしようもなく、横たわっていた。――遠野貴樹(「桜花抄」末尾)


物語は小学生時代から始まる。主人公・遠野貴樹は転校して東京に住み、休み時間中に外で遊ぶやんちゃな少年ではなく、図書室で本を読み、クラブは特にやりたいこともなかったためやり方を知っている将棋にするなど、比較的大人しい性格であった。東京で平凡な暮らしの中、小学4年生になった4月8日に転校してきた篠原明里に恋をする。遠野貴樹と篠原明里は同じ教室だったが初めて会話するのは休み時間の図書室のときだった。

 

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自分と共通点が重なる人がいるのは基本的に嬉しいことである。趣味であったり考え方であったり、同じ筆箱使っているなど小さなことでも何かしら共通点が同じ人とは、普通の人より抵抗は無くなり距離は縮まりやすい。遠野貴樹と篠原明里の共通点は転校生図書館で本を読むこと、そして精神的にどこか似ていることであり、図書室では他の子に邪魔されず2人っきりになれる場でもあるので、親密度はさらに増し仲良くなるのは必然的であった。が、
 
 
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突然の転校、優しい言葉を掛けれなかった少年
勿論、遠野貴樹は優しい性格である。あまりハキハキとした声はせず、教室でも出しゃ張るタイプではない普通の男の子だった。
小学校6年生の冬に、篠原明里が栃木へ転校することになったのを本人から電話で知らされ、それ以降離ればなれになる。大人からしたらちょっとした遠距離だと思うし、遠くても僕たち大丈夫だよ、と声を掛けると思うが彼はまだ子どもだ。小学生にとっては物凄く遠く感じ、唐突に言われた為に電話で優しい声を掛けることができなかった。この時、遠野貴樹は涙を流していなかった。自分の力では不可抗力だという意識が遠野貴樹を静かにさせ、まともに声を掛けることができず心が逃げたまま卒業する。そしてその後、あの時なんで優しくできなかったのだろうと後悔することになる。
中学時代に慣れないサッカーを選んだのは1人でやっていけるようにと思ったのか、思い出さないように文化系から離れたのか。はたまたモテたいために運動系にしたのか…それはさて置き入学後の忙しさから篠原明里との思い出が無意識に薄れていく。決して胸に畳もうとは思っていない。が、その夏に篠原明里から手紙が来たとこを境に己のタンスにしまっていた思い出が蘇る。鹿児島に転校するとこをキッカケに栃木へ行くのだが、大雪のため遅延する電車からの孤独感から、それなりに生活してきた数ヶ月間、あの子がいなくてもやっていけると思っていた表面上の心が破け、それまで心の底にあった本当の姿が現れる。しかしその現れがあったからこそ、物語の最高潮へと一気に桜を咲かす。
 
 
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潜在意識に刻まれた決意に恍然自失す主人公
作者の新海誠は限りなく現実的な恋愛を突いてくる。物理的な距離、時間は真剣な思いまでも貪っていくが、遠野貴樹はそれを許せないまま見ないふりをして流されていく。そして不可侵の感情を作ってしまった故に、他の人にはわからない真っ暗な領域が膨れ上がり、誰も辿り着くことができない。他の人とうまくつきあおうとしたり勉強、仕事をするがそれは上辺の遠野貴樹だ。
彼はまさしく恋愛(篠原明里)を軸にしている。だがそれは別に好きとか、また会えるとか彼女が待ってるなどそんなことは思っておらず、他の誰かと未来を誓うことが許されなかった。初恋にして一生この人を守るという決意ができてしまったのだ。潜在意識に刻まれるまでに。その潜在意識はなかなか取り除くことはできない。現実に負けて薄れていっても、こんなの俺じゃない、なんとかせねばという強迫観念が無意識に生まれてくる。本人にはわからなくても。
ただ、生活をしているだけで、哀しみは其処此処に積もる。日に干したシーツにも、洗面所の歯ブラシにも、携帯電話の、履歴にも———この数年間、とにかく前に進みたくて、届かないものに手を触れたくて、それが具体的に何を指すのかも、ほとんど脅迫的とも言えるようなその想いがどこから湧いてくるのかも分からずに僕は働き続け、気づけば日々弾力を失っていく心が、ひたすら辛かった。そしてある朝、かつてあれほどまでに真剣で切実だった想いが、綺麗に失われていることに僕は気づき、もう限界だと知ったとき、会社を辞めた—
 
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彼は全てを失って果ててしまうが、己を受け入れるようになる。最後に踏切で少女とさよならできた主人公はやっと前に進んでいく。
 

 

 

 

秒速5センチメートル(1) (アフタヌーンKC)

秒速5センチメートル(1) (アフタヌーンKC)

 

 

 

秒速5センチメートル(2) <完> (アフタヌーンKC)

秒速5センチメートル(2) <完> (アフタヌーンKC)